絶対に知っておくべき「ECの顧客体験」①|ECエバンジェリスト・川添隆氏にインタビュー【CX基本編】
昨今、注目される「顧客体験」(カスタマーエクスペリエンス、CX)というワードについて、
読者のみなさまはどのようにイメージされていますでしょうか?
すでに、直近の課題として、「顧客体験の向上」をテーマに施策に取り組まれている読者の方も多くいらっしゃると思いますし、
なんとなく重要性は分かるものの、実際にどう取り組めばいいのか悩んでいる方もたくさんいらっしゃると思います。
そこで、今回から計3回に分けて、ECビジネスの可能性を企業に伝え、全国のEC担当者を応援する活動を継続的に行われている、
ECエバンジェリストの川添隆さんに「顧客体験の向上」について、様々な角度から教えていただきます。
この「顧客体験」は今後のEC事業の成功を担う重要なポイントです。ぜひ、今後の事業運営のヒントにしていただければ幸いです。
僕が顧客体験を考えるときに、重要だと思うポイントは「お客様の事前の期待」です。
顧客体験が向上するということはつまり、「お客様の事前の期待」を考えて、そのためにアクションを起こし、その期待にそう、あるいは期待値を超えることですよね。
すべての出発点は「お客様の事前の期待」です。
それが前提にあって、うちは、どういうサービスをしますかとか、どういう商品を並べますかとか、どういう価格で並べますか、どうやって配送しますか、どうやって伝えますか、そういった問いに繋がっていきます。
しかし、その「顧客体験」を考えるのが難しい理由というのもあって、それは担当者がみんな企業側のミッションや目標数値、目の前の業務を背負っているためです。
多くの場合、利益を達成するために、いろんな販促施策をやらなきゃいけない、もっともっと集客をしなきゃいけない、っていうふうに物事を考えます。
つまり、ECを運営する担当者それぞれの目線が企業側としてお客様を見てるということです。
だから、企業側ではなく、顧客の立場での目線をまず持つことが重要です。
お客様になりきるとも言います。そこが第一歩であって、ここができないと、話がかみ合わないですよね。
ファッションブランドの例で説明すると、
例えば、オールユアーズはブランド立ち上げ時にクラウドファンディングを通じてファンとの強固なつながりをつくり、
レディースブランドのfoufou(フーフー)は、インスタライブやオフラインでの試着会を通じてファンとの濃厚な接点をつくっています。
「ああいうこと、うちもやろうぜ」って思っても、できるブランドの方が圧倒的に少ないです。
なぜなら、すべての出発点は「お客様の事前の期待」だからです。
「なんで、うちは盛り上がらないんだ。」と思っても、この問いにはズレがあるはずなんですよね。
それは、自分たちのブランドに対して、お客様はこういうふうに期待してるよねっていう、そこを、まず見ていないので。
一般的には「顧客理解」とも言われますが、もう少し具体化するために「事前の期待」という言葉を使っています。
また、この期待値は商材やブランドごとに変わってきます。新規で来た人とリピーターの方でも期待値は変わるはずです。
そうですね、コンタクトレンズという商材に関して、僕がメガネスーパーに入ったとき、僕自身は視力矯正の必要がなく、コンタクトレンズを装用したことがなかったので、買う側の気持ちや行動を、いろんな人にヒアリングしながら少しずつ形作っていったんです。
そうすると、「あれ、別に、クリアのコンタクトレンズに関してはブランドや業態が好きで買ってる人もいないなあ」とか、「意外と手持ちの在庫がなくなった後に、場当たり的に買う人も多いんだな」とか、そういうことに気がついたんです。
もちろん毎回最安値を価格検索する人もいるようですが、自社のアンケートなどで調査すると、どちらかというと、毎回同じ店で買う人の方が多いようなのです。
そういうことが分かってくると、なんとなく、どういうことが求められているのか、つまり「お客様の期待」が分かるようになりました。
商材に関して、もっと追求すると、コモディティに近いけれども、高度管理医療機器等の販売許可がないと販売ができないので、どこでも買えるわけではなく販売チャネルは限定されます。
だから、なかなか特殊なんですけど、逆に言うと、業態に対しても、ブランドに対しても、ロイヤルティーが極めて生まれにくい商材でした。
それなのに、僕らが「このコンタクトを販売するストアブランドとして、絶対にファンになってほしいです!さあ、いかに戦略的にファンになってもらおうか?」みたいなことを考えちゃうと、ずれがあるわけです。
期待をされてないものを、大好きになってくださいみたいな。これって、すごくアンマッチというか、気持ち悪いですよね。
これは、よく言っていますが、メガネスーパーの自社ECサイトでは、劇的な体験やクリエイティブを通じてサイトをブランディングしていこうというのは最初から考えませんでした。
実際はやりながら少しずつ手ごたえを感じながら進めましたが、ちょっとの差を生み出そう、ほんのちょっとだけでいいから、ここ買いやすいなと思ってもらえるように取り組んだんです。
それは、大差を生むことが難しいわけですから。商品で差が出せるわけではないし、日々価格競争の対象になっている一方で、買うのも面倒くさいと感じていて、なんとなく不満を感じつつも同じ店で買い続けるお客様も多いわけです。
だから、「いつも使っているLINEの案内のボタンを押すだけですぐに(30秒くらいで)注文できるんだったら、ここでいいじゃん。全国に店もあって安心そうだし。」とか「定期便に入れば、勝手に届くからいいじゃん。」、そう思ってもらえたら、僕の中では勝ちです。
そういった、ちょっとの差を生むのに、これまでの自社ECサイトとしては注力してきたんですよ。
どうやったら、簡単に買えるかを追求したんです。
例えば、決済に関わることだけでも、代表的なものがいくつかあります。
まずは、カートから注文完了までの過程をなるべく簡単にすること。次に、お客様自身が使いたい決済手段を増やすこと。これは、すでに多くのECサイトで取り入れられていることでしょう。
それから、注文フォームの簡易性も重要です。オフラインもオンラインも同様だと捉えていますが、買うものが決まった後は、スムーズかつスピーディに終わりたいですよね。
ECサイトで言えば、フォームに入力したり、初めて使うECサイトでクレジットカードを財布の中から取り出したりするのは面倒くさいものです。
特に電車での移動中のようなスキマ時間だと、なおさら面倒くささを感じるはずです。
そういった場合は、ID決済を導入すれば、お客様のストレスを軽減することが可能になります。ID決済の場合は、IDやパスワードを忘れるというわずらわしさからも解放される可能性が高まります。
決済方法以外でも、ECサイトに入って欲しい商品のページにたどり着く時間をなるべく短くするために、
サイト内検索やカテゴリー構造、商品の並び順を改善することもストレス軽減につながるのではないでしょうか。
そういうストレスがちょっとずつ減らせそうなことから改善を加え、その後の数値結果で手ごたえを感じられたら、また次へと進めていきました。
重要なポイントは、優先順位をなるべく利益が上がるであろうということから取り組むことです。
商売ですから、成果に対するインパクトと実現性の2つで優先順位をつける必要があります。
商売であれば利益が増える結果を先に出したほうが、最終的に自分のやってみたいことを上司や経営者側に通しやすくなります。
ある程度、やるべきことを網羅していくと、「いや、これだけじゃフツーだな」みたいな感覚になってくるんです。
独自性というのは「このECサイトならでは」ということですから、フツーでは独自性はでませんよね。
その観点で、「これ、短期的な売り上げに直結するか分かんないけど、お客さまには価値が提供できそうで、中長期的にはリターンがあるかもしれない」っていうものに投資をする場面もあります。
そんなときにはこれまでの実績が信頼となり、なおかつ結果をだせた理由をロジカルに語れることを武器にして、上司や経営者を説得するのがスムーズです。
私も一スタッフ時代があったのでわかりますが、振り返ると結果にこだわって結果を出して以降とそれ以前では、提案の通りやすさは劇的に変わりました。
さっき言ったような、流行りや、他社の成功パターンを追いかけて、内々でいきなり盛り上がってやってみても、それは、うまくいかないですよね。
だって、やったことがない、なんの結果もないわけですから。
当然、集客は大切です。特に新規でECサイトを立ち上げる際は、「誰をどこから呼んでくるか?」を明確に決める必要があります。
また、すぐにできる集客の改善は早く結果につながりやすいです。
特にCRMやリスティング広告の改善は、LINEというユーザーが使いやすいチャネルとその友だち登録数を増やす、また、すでに配信しているものがあれば、
「件名×本文(クリエイティブ)×タイミング×配信リスト」のそれぞれに改善を加えることで、結果につながることが多いです。
一方ですでにECサイトを運営していて、集客だけをしても利益がでない理由は明確で、商品の粗利率が30%台という場合か、お客様がリピートしない場合かなんです。
ECサイトは施策によって売上が上下動することはありますが、根本的にリピートサイクルが生む仕組みづくりを忘れてはいけません。
リピートサイクルをつくれたECサイトは勝てるわけです。
リピートサイクルにはリピートしたくなる理由が必要です。それには商品が優れてる、プライスが優れてる、そういうケースもありますし、注文しやすい、サービスが優れてる、そういうケースもあると思います。
買いたくなるとまでいかなくても、ここで買ったほうがいいなとか、そういうことも然りです。
顧客体験に結びつけて考えると、昨日、プロパー(定価)で売ってたものを、今日、セールで売った場合に、誰が嫌な気持ちになるかっていうと、昨日、プロパーで買った人ですよね。
商売をやっている以上しょうがない場合が多いですが、それをどうフォローしていくか、今後はどのようにしていきたいかを継続的に考えて、施策やカスタマーサポートにいかすことだって、リピートには繋がるはずです。
「絶対に知っておくべきECの顧客体験」の第一弾はここまでです。
第二弾では、川添さんにオンライン接客の観点から「顧客体験」についてのお話を、とことんお伺いいたします!
そちらも役に立つ情報が満載なので、ぜひ併せてご一読ください。
川添隆さん監修のマンガ「ECの顧客体験 -リピートサイクルはチャットでつくれ」も絶賛公開中です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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