同一労働同一賃金の余波… コールセンター値上げとその対策
2019年10月の消費税アップに続き、2020年4月からは同一労働同一賃金を定めた「働き方改革関連法案」が施行されます(中小企業への適用は2021年4月から)。
法改正に伴い、多くの企業で、同一労働同一賃金ルールにのっとった賃金制度の見直し、就業規則や賃金規程の改定準備が行われています。これらの影響は非常に大きく、様々な商品・サービスの提供価格に影響を与えることは必至です。
今回は、多くの非正規労働者に支えられ、法改正の余波を大きく受ける業界のひとつである「コールセンター」のコストアップと、その対策について解説します!
コールセンターの運営費
コールセンターを運営するには多くの費用がかかります。コールセンターを立ち上げ、向上的に運営していくためには、初期投資の他に下記の費用がかかります。
- 家賃
- 電気代
- 通信料
- コールセンターシステム保守費用
- コールセンターシステム更新費用
- 人材関係費用(給与・採用費・教育費・管理費・福利厚生費)
この中で最も大きな割合を占めるのが「人件費」です。
リックテレコムの調査によりますと、総経費の約72%を占めると言われています。
人件費を圧縮しつつ必要な業務をこなすため、ほとんどのコールセンターでは正社員、契約社員、パートタイム、派遣など、様々な契約形態の労働者が存在します。
これまでは、パートタイムや派遣などの非正規労働者を主力とすることで変動費をコントロールし、コールセンターの運営を効率的に行ってきました。
しかし、コールセンター業界は、高ストレス等を原因とする離職率の高さから、人手不足状態が慢性化しており、オペレーター採用・教育費がコールセンターのコスト増に追い打ちをかけています。
コールセンタージャパンの調査によれば、2013年6月に1.0倍だった有効求人倍率は、昨今の景況感もあいまって2020年1月には1.6倍と採用にかかるコストは上昇の一途をたどっています。
「同一労働同一賃金」による法改正の余波
人件費が増大する最大の要因は、「同一労働同一賃金」の原則が盛り込まれたパートタイム・有期雇用労働法や改正労働者派遣法にあります。
これまでは正社員と同じ業務に就いていたとしても、派遣社員やパートは正社員とは別の給与体系でした。ところが今後は「不合理な格差」が法律で禁止される事になったため、対策が迫られています。
これに対して、単純に派遣社員やパートの給与を正社員と同等にするのは不可能です。あまりにも人件費が膨らみ過ぎてしまうので、正社員側の賃金体系を非正規雇用労働者に近づけたり、派遣会社と折衝して契約条件変更をしたり、正社員の業務内容の見直して非正規雇用労働者と同じ業務を避けたりすることで対処しています。
人材関連のコスト増は、パートタイム・有期雇用労働法や改正労働者派遣法の施行による同一労働同一賃金の動きだけではありません。
働き方改革関連法案の内容全体が、コールセンターのアウトソーシングを請け負うコールセンター業界全体の負担増につながっています。
一見すると、今回の法改正は労働者にとって好ましく見えますが、企業にとっては非常に悩ましい内容です。法律の目指すところは労働者が少ない労働時間で手厚く守られるという「正論」ですが、企業側にしてみればこれまで以上に人を雇う責任が重くのしかかってきます。
そして、人を雇うコストや責任が重くなると、必然的に出来るだけ従業員を減らして業務を遂行できる環境づくりが求められます。
コスト増対策の鍵はデジタル化
このような背景から、現在コールセンターをアウトソーシングしている会社の多くは、次年度費用の値上げ交渉を受けています。全体的には、10〜20%程度の料金アップを迫られているようです。
多くの企業は、コストアップを委託範囲の見直しなどでなんとか乗り切ろうとしていますが、問い合わせ応対品質が下がることで、顧客離反につながったり、クレーム増で余計にコストが増えるといった影響が懸念されます。
このコスト増への打開策は「デジタル化」が最有力です。
これまで「電話」で行っていた受付業務の一部に、「チャット」を導入することで受付チャネルを多様化させる、「コンタクトセンター化」をすすめることで、コスト削減効果が期待できます。
電話やメールは1対1で対応コストが膨らんでいきます。一方、チャットは複数の問い合わせを同時に対応できるので、増加する問合せ対応を効率化させるだけでなく、人件コストの削減をすることができるのです。
また、チャットボットを活用すれば、さらに人件費を抑えることが可能です。
店舗の開店時間や、アクセス案内など、基本的な問い合わせをチャットボットで対応できれば、コールセンターでの問い合わせは、人間でなければ答えられない複雑なものだけになるためです。
それに加えて、メンテナンスやアップデートさえ出来ていれば、システムは人間と違い、不眠不休で稼働する上に給料や社会保障が不要です。今後は基本的な作業はシステムで自動化してしまい、対処できない案件だけオペレータが対処する役割分担が徐々にデファクトスタンダードになっていくのではないでしょうか。
これは、人の価値が高くなったことによってもたらされる必然的な結果だと言えます。
同一労働同一賃金を契機としたコールセンターの費用増を契機に、チャットセンター導入によるコンタクトセンター化を検討する動きは加速しています。
問い合わせ業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって、コストの削減だけでなく、エンドユーザーの利便性向上にもつながります。
これを機会に、ぜひデジタル化を検討してみてはいかがでしょうか?