絶対に知っておくべき「ECの顧客体験」③|ECエバンジェリスト・川添隆氏にインタビュー【マインドセット編】
ECエバンジェリストの川添隆さんにインタビューさせていただき、全3回にわたって、「ECの顧客体験」についての概要から実践的な情報まで幅広くお伝えさせていただきます。
これまでのインタビュー記事はこちら。
>>>第一弾! “絶対に知っておくべき「ECの顧客体験」①【CX基本編】”
>>>第二弾! “絶対に知っておくべき「ECの顧客体験」②【オンライン接客編】”
最後の第三弾では、EC担当者を応援し続けている川添さんに、今日からビジネスに活かすことができる「マインド」の部分にフォーカスを当てて、教えていただきます。
特に小売りやサービス関連企業の経営者は「顧客主義」掲げているところが大半だと捉えています。
ただし、商売なので、短期にしろ中長期にしろ、取り組みによって何かしら明確なリターンにつながることが前提です。
そうなると、説得するための方法は一つしかなくて、やっぱり自身の仕事で結果を出すことだと思います。かつ、結果に導く意思があるとなおよいでしょう。
アパレルで言うと、ナノ・ユニバース、ベイクルーズ、ビームスなど、いずれも名のあるECの責任者は全員、結果を出されていますよね。
結果を出し続けて、さらに次のチャレンジもしています。
ある程度結果が出ていれば守りにいってもおかしくないわけですが、新たなチャレンジも継続できるのは、そこに意思があるからだと捉えています。
だから、極端に言うと、「この領域に関しては、絶対的な信頼を置いている」と経営サイドに思ってもらえるような信頼関係を築けるのが理想です。
前にもお伝えした通り、成果に対するインパクトと実現性の2つで優先順位をつけることは重要です。
仮に今、今年度の売上や利益の目標を追っていかないといけない、しかもビハインド気味だとしたら、まずその目標を優先するしかないですよね。
まさしく、このコロナ禍で、キャッシュフローを優先しなければいけない状況であるなら、中長期的な顧客体験を向上するための投資よりも、すぐに利益に直結する施策や投資を優先したほうが良いはずです。
だけど、それは「顧客体験の向上」のことを忘れていいと言っているわけではありません。
これは頭の中に常駐させておくべき宿題ですし、短期的な判断をする上でも、その先のことを意識した上で取り組んでみて欲しいんです。
「現金化しなければならないからやむなく割引販売はするけど、将来は必ず割引しなくても売れるブランドにしていく」とか、「毎月発生してる商品に対するクレームは、今は対処できなくても、近い将来絶対に対応してやる」という意思は持つことができるはずです。
そういう独自性につながっていくような情熱を捨てたらダメだと僕は信じています。
そういった「いつか対応しなきゃいけないこと」を、課題リストとして、僕は頭の中に入れてるんですよね。
忘れてしまう人は、いつでも見返せてストックもできるクラウド上などにメモっておくのも良いでしょう。
それが、今、解決できなくても、将来的に解決できる場合はあります。
テクノロジーの進化によって導入コストが下がったり、経営環境の変化することなどで、前提条件が変わることがあるからです。
例えば、コロナ禍は望んでやってきた出来事ではありませんが、これによってデジタル化への速度を求められて、複数を並行して実現している企業も増えてきています。
今すぐに、解決できないことって、必ずあるんですよね。そして、それは解決できない理由も存在するんです。
でも、その課題(宿題)リストを忘れずに取っておくことが非常に重要です。
僕自身も5月以降に、新たなサービス企画・開発を3本並行していますが、どれも過去の課題リストにあった課題と、今の課題が合致して進んだものでした。
そうですね、僕は「お客様がECサイト(お店)をよく見てくださってる」と感じる経験を何度もしてきました。
前職(ガールズアパレル)のときも、アンケートを採ると、「新しい機能がどんどん追加されてきて、とても助かっています」って書いてくれるお客様が複数いらっしゃいました。
こちらからすると「ええ、そんなところ見てくれてるんでんすか」って驚かされるんですよね。
2013年に店舗での在庫の有無を自社ECサイトに表示をする機能を実装した時は、
店舗がない鳥取県に住んでいらっしゃるお客様から、「いつも店舗に行くときは広島に行くか岡山に行くか迷っていたんですが、この機能がついてからは在庫を把握してから買い物できるので良かったです」と、
僕らの意図をそのまま汲んでいただいたようなご意見もありました。
メガネスーパーの自社ECでも、「なぜメガネスーパーグループ公式通販サイトを使っているのか?」というアンケートを定期的にとっているんです。
かつては「メガネスーパーへの信頼があるから」って答えが1位だったんですよ。
一方で、僕らはコツコツと注文を簡単にするための機能改修を継続していく中で、ある時期に「注文が簡単だから」っていう、選択肢を追加したんですよね。
それ以降は、「注文が簡単だから」が1位なんですよ。
注文を簡単にした方がより買いやすくなると考えて、簡単にできるようにしているわけですが、
「嗜好性の高いファッションのような業態でなくとも、EC運営をしている側の考えはお客様に届くんだな」と感じました。
どんな仕事でも共通しますが、ECを運営できている立場としてのやりがいや楽しみを見つけることは非常に重要なんです。
お客様が求めるから、こちらはそれに応えるわけですよ。せっかくなら、その期待をちょっと超えてみたいじゃないですか。
そうすると、お客様もいろんなカタチで返していただけるわけで、だから、こちらもまた返したいと思う。
これって、直接的ではないですけど、ECって実はそんな風にお客様と対話ができる場所だって考えると、すごく面白いですよ。
直接、見れないっていうのはありますが、それはただの一側面でしかありません。
本来、面と向かって接客していたら、こちらが対応できないほどの人数のお客様に対して、画面上で商品や意図が伝わってるってことを実感していくと、仕事って面白くなるなあって思います。
もちろん、現時点においては、オンライン接客によってインタラクティブかつパーソナライズな接客も可能になったわけですから、これまで足りなかった部分も補っていける可能性がより高まっています。
「これは本当に正しいのかな」「このままでよいのか」って常に問い続けることはすごく重要だと思うんですよね。
施策を一つ一つ積み重ねていくと、必ず停滞する時期がやってくるのが原理原則です。
売り上げを構成している商品や施策の内容が変化したり、市場環境・競合環境によって風向きが変わる可能性だってあります。
まさに、コロナウイルス禍以降は、毎月毎月状況が変化しているため、施策の再現性が生みづらくなっています。
それなら、環境が変わればお客様の求めているものが変わってるんじゃないかな、って考え続けなきゃいけないはずですよね。
今は通常時よりも、「停滞」という時間軸が短くなっているとすると、いつも以上に「今、これは正しいのかどうか」を問う必要があると思っています。
特に、ポジションが上の人ほど、こういったことを振り返る瞬間を持たないと、大切なことを見誤る可能性もありますし、再現性をもって結果を出すのは難しい捉えています。
例えば、オンライン接客が流行ってるから「うちもやろう」と考えがあった場合、
業界全体でなんでそれが流行っているのか、なぜそれを利用するお客様が増えてきているのか、当社にはそういった期待はあるのか、そもそもオンライン接客とはどんなプロセスのことを言うのか、などの背景や招待を理解する努力をしないと、
結局、一つ一つのトレンドに振り回されるだけで、うちは、何やってたんだっけみたいなことになりかねません。
だから僕は、普段から「違和感を感じる」ことを大切にしています。
「あれ?なんかちょっとおかしいな」とか「言っている内容に矛盾があるな」とか、「それって感想ではなくて、事実があるのか」とか、そういったささやかなことを含めてです。
これは、外部のパートナーとの商談でも違和感があれば、その場でなるべく伝えるようにしています。
いずれも揚げ足を取りたいからやっているわけではありません(笑)
不調の時だけじゃなくて、好調の時でも違和感は生じます。
何か腑に落ちない事象と出会したときに、これってどうしてだっけ、そんな風に、適宜振り返って、それを蓄積して次にいかしていくのが、目標達成にも役立つと考えています。
「絶対に知っておくべきECの顧客体験」の第三弾・マインドセット編、いかがでしたでしょうか。
全3回にわたってお届けしてきたこの連載記事も今回が最後です。
少しでも、皆さまの業務に役立てていただくことができれば、何よりも嬉しいです。
今回のインタビューの内容を分かりやすくマンガにまとめた「ECの顧客体験 -リピートサイクルはチャットでつくれ」もぜひこの機会にご一読ください。
川添さん、インタビューに快くお応えいただき、本当にありがとうございました。
読者の皆様も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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