アパレル業界のオムニチャネル戦略と実例について
小売市場規模が横這いから縮小傾向にあるアパレル業界において、唯一伸びているチャネルが通販です。各社ECの販売を伸ばそうとしていますが既存の店舗との関係はどうなるのでしょうか。
オムニチャネル化するアパレル企業について紹介します。
アパレル業界の現状
矢野経済研究所の調査※によれば、アパレル業界の市場規模とその内訳は下記の通りとなっています。
2016年の国内アパレル総小売市場規模は前年比98.5%の9兆2,202億円であった。品目別では、婦人服・洋品市場が前年比97.8%の5兆7,563億円、紳士服・洋品市場が同99.6%の2兆5,478億円、ベビー・子供服・洋品市場が同99.8%の9,161億円と、いずれの品目においても前年実績を下回る結果となった。
~中略~
2016年について販売チャネル別に見ると、百貨店は前年比93.5%の1兆9,265億円、量販店は同92.8%の8,584億円、専門店は同100.4%の4兆9,826億円、その他(通販等)は同102.7%の1兆4,527億円であった。
出典:出典:株式会社矢野経済研究所「国内アパレル市場に関する調査(2017年)」(2017年10月26日発表)
2017年時点でのデータではありますが、上記の矢野経済研究所と後述の経済産業省の資料によれば、通販では試着したり商品を手に取る事が出来ないにもかかわらず、唯一インターネット通販だけが成長していると結論付けられています。
オムニチャネル化で対応
このような経済環境においてはアパレル業界に留まらず小売りだけ、通販カタログだけといったシングルチャネルの企業は自社ECサイトの立ち上げや既存のチャネルとの連携を積極的に行っており、最終的にオムニチャネル化に行きつくと思われます。
※出典:経済産業省 アパレル・サプライチェーン研究会 参考資料
上記の資料の図にあるように、まずはマルチチャネル化したのちに全てのチャネルを統合管理することで、顧客がどこからアクセスしても同じ購入体験(CX:Customer Experience)を得られるようにするのです。
上記は顧客へのチャネルですが、実際にマルチチャネル化を達成するにはサプライチェーンの大幅な変更・改善が必須ですし、社員の意識改革も重要です。
オムニチャネルの詳しい解説は下記の記事をご覧ください。
オムニチャネル化したアパレル企業の実例
以上の業界環境を踏まえた上で実際にオムニチャネル化した企業としてユニクロとユナイテッドアローズの例を紹介します。
ユニクロ(UNIQLO)
世界でも有数の売上を誇るユニクロはいち早くオムニチャネル化を果たしました。
既に日本中に小売店を持つユニクロですが、スマホアプリやECサイトを通じた通販を行っておりユニクロのアプリではUNIQLO IQというAIチャットボットが在庫確認やコーディネイト相談など様々なサービスを提供しています。
このアプリは利用者だけでなく、ユニクロ側にも大きな利点があります。
ユニクロは利用者の性別や年齢などの個人属性と購入データを収集しており、最新のデータに基づいた商品開発や在庫管理に活用しているからです。
出典:経済産業省 アパレル・サプライチェーン研究会 参考資料
また既製品の販売だけでなく、ビジネススーツやYシャツをオーダーメイドするサービスも行っています。
サイトの指示に従って自分で採寸するか、店舗で採寸してもらったデータを送信するのです。
その後、商品が出来上がったら郵送してもらうか店舗で受け取るかも選ぶことが出来るので、まさにオムニチャネルのお手本のようなサービスだと言えるでしょう。
こういったサービスは非常に高度なシステムがなければ成り立ちません。その裏側を支える上で重要なのが下記の2点です。
- RFIDタグの導入
- 物流拠点の整備
RFIDタグの導入
RFIDタグのRFIDとはRadio Frequency IDentificationの略称で、電波を使ってデータを非接触で読み取る技術の事です。
バーコードと違って下記の利点があるので非常に効率的に大量の商品を管理できます。
- 一度に複数のデータを読み取れる
- 距離が離れていても読み取れる
- 箱や袋などで包装されていても読み取れる
- タグが汚れていても読み取れる
- タグの個別識別が出来る
一度でもユニクロの小売店を使った事のある方ならすぐに分かるかと思いますが、カウンターの上に商品を置いただけで金額がはじき出されるのはこのRFIDタグのおかげです。
また商品清算だけでなくだけでなく、リアルタイムで販売情報が管理できるようになるので在庫管理や棚卸が不要になります。
RFIDタグはその種類によって通常1個10~20円程度のコストが必要とされていますが、技術の進歩や大量導入によるコスト削減効果によりアパレル業界で広く普及しはじめています。
物流拠点の整備
いくらデータがあっても実際にモノが届かなければ意味がありません。リアルタイムで取得したデータを十分に活用するにはサプライチェーンの整備が必要です。
そこでユニクロは大和ハウス工業と合弁で消費地により近い場所に大型多機能物流拠点を設置することで、配送コスト・時間を大幅に短縮するとともに、リアルタイムの販売状況に合わせて商品を短時間で仕分けして各店舗に配送できるようになりました。
オンラインとオフラインを統合するには自社ECサイトやアプリの開発だけでなく、顧客には見えない裏側の整備も重要です。
ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)
多くのブランドを持ち200を超える店舗を構え、年商1000億円を超えるユナイテッドアローズも実店舗での売上は減少しておりネット通販が伸びています。
そして現在18%程度に留まっているECサイトでの売上比率を25~30%に引き上げたいとの事で、オムニチャネル戦略を強めています。
かねてよりユナイテッドアローズはZOZOグループにECサイトの運営やEC在庫の管理を委任しており、2018年年末までは下記の経緯をたどってきました。
この段階において同社は既にオムニチャネル戦略として下記を実現していました。
- 店舗在庫を把握して自社ECと商品を融通しあう
- 蓄積した販売データから顧客の行動や嗜好を分析したレコメンドエンジンの導入
- 試着予約(店舗取り置き)
- 販売データに基づく商品開発
オンラインとオフラインの在庫共通管理や蓄積したデータに基づく接客、商品開発はオムニチャネルの特徴だと言えるでしょう。
ところが2020年3月期からはZOZOから離れ下記のように全てを自社でコントロールする新体制に向けた方針を打ち出しました。
ZOZOとユナイテッドアローズは長年にわたる取引関係にあったため、発表時はZOZO離れと報道され大きなニュースになりました。
この動きについては他社EC(ここではZOZO)を使うと手数料などの面で売上が削られるため自社ECに集中している、ZOZOを離れた事による売上減は短期的なもので挽回できるだろうといった見方がされています。
小島健輔の視点「ユナイテッドアローズのZOZO離れに何を見る」商業界ONINE
止まらない「ZOZO離れ」 「ユナイテッドアローズ」が撤退へ ゾゾ「今後も取り扱い数は増える予定」zakzak by 夕刊フジ
しかし外注コスト削減のためだけに安定した関係を変えたわけでない事は、ユナイテッドアローズが目指すオムニチャネルのヴィジョンを見れば明らかです
実際、決算資料には下記のように記載されており、単に経済的理由ではなく、長年にわたるZOZOとの蜜月関係を変えてまでオムニチャネル化を促進する必要性があった、と考えたほうがより同社の戦略の本質に近いと言えるでしょう。
消費動向やトレンド情報などの外部環境のデータと、ハウスカードを通じてお客様からいただく属性情報、さらに実店舗やUAオンラインストアにおける購買履歴などの各種データを有効活用し、将来的には一人ひとりに最適化させた精度の高いサービスを、オンラインとオフラインの枠を超えて提供したいと考えている。商品調達や物流などのインフラ面においても、お客様が欲しい商品を、欲しい所で、欲しいタイミングでお買い求めいただけるよう、業務体制と業務基盤を整備していく。
まとめ
ユニクロやユナイテッドアローズのオムニチャネル戦略は非常に強力です。
顧客がシームレスに買い物できるためのシステムとしてオムニチャネル化が求められており、決して伸びているECだけに注力するとか、小売店が不要になるといったものではない事が分かります。
市場規模が頭打ちで競争が激化する中で生き残るために重要なのは顧客を掴む事です。
顧客が望むタイミングで望むものを望む場所に用意するために、アパレル企業だけに限らず小売業全体にオムニチャネル化、OMO化の必要性が増しているのです。